自分の心を見つめなおす
誰でも自分がかわいい。自分を疑うことが難しい。だからこそ、この本は貴重な1本。
データをもとに完膚なきまでに自分の思い込みや傲慢さを気づかせてくれる。データをもとに世界を正しくみる習慣を身に着けるというテーマの本だけれど、むしろ心理的な壁をぶちこわしてくれることに価値がある。この本を聴き終わるころには、心が洗われた気分になっているはずだ。
そのへんのひとより読書しているし、社会問題に関心も持っているし、そこそこ教養はあるほうなんじゃないかな。最近の若者とは違うのだよ。という人にほど、聴いてほしい。そして素直に感動してほしい。
こんな人におすすめ
- クイズ番組で答えられない芸能人を鼻で笑っている人
- 自分が間違いないと信じて疑わない人
- 「昔はよかった」といつも思っている人
「教養がある」と思い込んでいると
本書の冒頭で、シンプルな13の質問がなげかけられる。いくつか抜粋してみたい。この質問をあてずっぽうではなく、きちんとデータの裏付けがあってこたえられるなら、この本を読む必要はない。いくつか紹介してみよう。
低所得国に暮らす女子の何割が初等教育を修了するか?
A.20% B.40% C.60%
世界の人口のうち極度の貧困にある人の割合は過去20年でどう変わったか?
A.約2倍になった B.あまり変わっていない C.約半分になった
世界の平均寿命は現在およそ何歳か?
A.50歳 B.60歳 C.70歳
世界中の一歳児のなかで、なんらかの病気に対して予防接種をうけている子供はどのくらいいるか?
A.20% B.50% C.80%
世界中の30歳男性は平均10年間の学校教育を受けている。同じ年の女性は何年間学校教育をうけているか?
A.9年 B.6年 C.3年
私にはもちろん聴く資格があった。全問不正解だったから。
コロンブスの卵
これらの質問の答えは、わかってしまえば簡単だ。しかし、著者は続ける。チンパンジーでさえ33%の正解率になるはずなのに、なぜ多くの知識人の集団が、チンパンジー以下の正解率になってしまうのかと。それらにはいくつかの「本能」が作用しており、それらを飼いならすことで、こういった間違いを減らしていくことができると説いている。
収入をレベル分けする
思考法のひとつとして、収入のレベルを4つにわけて考えることを推奨している。それぞれのレベルにおける人々の暮らしを知ることで、多くの社会問題へのアプローチが可能になるからだ。大学をでたとかでないとか、遺産があるとかないとか、そんな些末なレベル分けではない。たぶんこのブログを読んでいるひとはすべて「レベル4」だ。
それぞれのレベルの人々がどんな暮らしをしているかを感じる方法として、著者がつくった下記のサイトが参考になるだろう。
いいくにつくろう、かまくらばくふ
いま学校では鎌倉幕府の成立を「1185年」と教えている。源頼朝が守護・地頭をおき実質的に日本を支配のが「1185年」だ。一方、「いいくにつくろうかまくらばくふ」という語呂で、。多くの人は「1192年」と学び、いまもそう信じているはずだ。
これは私たちが知識をアップデートしていないことから起きる齟齬である。歴史ですらこうなのだから、現代が変わらないはずがない。しかし私たちは、学校で勉強した何十年も前の「社会」の知識を絶対的なものとして生きていく傾向がある。
この本を聴き、知識のアップデートがいかに重要で、その重要なことが、とてもないがしろにされているという現実を身をもって知ることになった。鎌倉幕府の成立より、現実社会の情報をアップデートしていくべきだ。全員が。
人類は確実に良い方向にむかっている
人類は少しずつだけれども確実に良い方向に進んでいる。しかし悲劇と比較して、良いことの報道はあまりにも少ない。そして悲劇を求めるのは人間の本能なのである。だからこそ、私たちは訓練をして自分なりにデータをつかって世界を見る必要がある。
最後の章では、正しく見るためのコツをこうまとめている。
世界を正しく見るために
- 分断本能をおさえるには:大半の人がどこにいるかを探そう
- ネガティブ本能をおさえるには:悪いニュースのほうがひろがりやすいと覚えておこう
- 直線本能をおさえるには:直線もいつかは曲がることを知ろう
- 恐怖本能をおさえるには:リスクを計算しよう
- 過大視本能をおさえるには:数字を比較しよう
- パターン本能をおさえるには:分類を疑おう
- 宿命本能をおさえるには:ゆっくりとした変化でも変化していることを心にとめよう
- 単純化本能をおさえるには:ひとつの知識がすべてに応用できないことを覚えておこう
- 犯人捜し本能をおさえるには:誰かをせめても問題は解決しないときもに銘じよ
- あせり本能をおさえるには:小さな一歩を重ねよう
しっかりとした技術に裏打ちされたナレーション
見出し部分とそれ以外、2人で読み分けが行われている。本文はおもに大岡優一郎さん、見出し部分などは、水原恵理さんだ。どちらもアナウンサーだけあって発音・発声がしっかりしていて聞き取りやすい。
私は、大部分を通勤途中に聴いたけれども、言葉を聞き取れずに気になったところはほとんどなかったと思う。これはビジネス書のナレーションでは本当に大切なこと。本は新しい知識がでてくるから、どうしてもわかりづらい言葉もでてくる。そこで言葉をきちんとイメージできるように読んでくれる点がありがたかった。
評価と概要
この本の朗読評価
これはいい。ぜひ聴いて!
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ナレーター(スタ☆スケより)
大岡 優一郎
テレビ東京のアナウンサー。元NHKアナウンサーで、NHKでは甲府と宇都宮で勤務していた。テレ東入社後、報道系番組を中心にキャスターを務め「有田&山崎のひきだし太郎」や「ワールドビジネスサテライト」でナレーションを担当。
水原 恵理
テレビ東京アナウンサー。1999年入社。主な担当番組はBSジャパン「日経プラス10」「極上!お宝サロン」「皇室の窓スペシャル」「ゴルフ交遊抄」「あの年この歌~時代が刻んだ名曲たち~」ほか、「都議会特番」。
作者(Amazonから)
ハンス・ロスリング
ハンス・ロスリングは、医師、グローバルヘルスの教授、そして教育者としても著名である。世界保健機構やユニセフのアドバイザーを務め、スウェーデンで国境なき医師団を立ち上げたほか、ギャップマインダー財団を設立した。
ハンスのTEDトークは延べ3500万回以上も再生されており、タイム誌が選ぶ世界で最も影響力の大きな100人に選ばれた。2017年に他界したが、人生最後の年は本書の執筆に捧げた。
オーラ・ロスリングとアンナ・ロスリング・ロンランド
オーラはハンスの息子で、アンナはその妻。ギャップマインダー財団の共同創設者。オーラはギャップマインダー財団で2005年から2007年、2010年から現在までディレクターを務めている。アンナとオーラが開発した「トレンダライザー」というバブルチャートのツールをグーグルが買収した後は、グーグルでオーラはパブリックデータチームのリーダー、アンナはシニア・ユーザビリティデザイナーを務めた。2人はともに功績を認められ、さまざまな賞を受賞している。