朗読レビュー

てのひらの上にある危機を体感できる【スマホを落としただけなのに】

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てのひらの上にある危機を体感できる【スマホを落としただけなのに】

謝罪

申し訳ございません。
私、一身上の都合で、これまで神谷さんを存じ上げませんでした。声優アワードで殿堂入り、押しも押されもせぬ人気声優さん。

私のなかで声優といえば、野沢雅子・神谷昭にお世話になった世代。いやほかにももっと存じ上げてはいるのですが、顔と声と名前が一致するとなると、そのくらいです。

朗読をいろいろと聴き始めたころ、声優の方の作品にふれる機会があり、それが自分のイメージしていたものと大きく乖離していることを認識して以来、自ら耳をむけることは無くなっていました。

しかし朗読を愛するものとして、これではいけないと奮起一番、今回は、チャレンジしてみたのでございます。結果は、思いもよらぬものでございました。

本当はタイトルからして苦手

そもそも、タイトルに「スマホ」とか現代的な略語が入ったりしていると、内容すら軽薄なものではないかという思い込みが先立ちまして、ふだんでしたらこれだけでも避けて通る要因になっていたはずです。

しかし主演に「神谷浩史」という名前がありました。情報収集のために初めてのぞいた声優雑誌の巻頭をかざっていたひとだったので運命を感じ、これは聴いてみようと。

小説の作者も知らず、タイトルも苦手、声優の方も知らずという勝手に作り上げた三重苦。しかし一方で、そういった作品だからこその出会いがあるのでは、という期待感があったのもまた事実です。

誰でもできそうな犯罪であることが怖い

聴き終えて、ストーリー展開は、それほど衝撃があったかというと、そうではなく想定の範囲内でした。作品のファンの方ごめんなさい。Amazonの片隅にある1レビューだと思って無視してください。

朗読作品はあれやこれやと想像をめぐらせる前にストーリーがずんずん進んでいきます。どうしても考える時間が少なく、また良作であればあるほど早く先を知りたいという衝動もあり、結果、衝撃度が弱く感じてしまうことがあるように思います。

しかし、作品の中で紹介されているさまざまな「手口」は、ちまたのセキュリティ関連の書籍をあたまをかかえながら読むよりよっぽどタメになります。

セキュリティの第一歩は、どういった対策を講じるかということより「危機感」をもてるかどうか。「危機感」をもって対策を講ずれば、そう簡単に犯罪に巻き込まれることはありません(たぶん)。
そういった意味で、この作品は十分な危機感を抱かせてくれます。特殊な道具や技術を使わずともある程度のことはできてしまう。殺人という離れた世界のことより、その手口によほど恐怖を感じました。

窓が換気口としての役割をはたす一方で、ウイルスの侵入元でもあるように、「スマホ」というものが、情報入手のツールである反面、情報を拡散してしまうツールであるということ。そこから情報がいったん拡散されてしまえば、削除するのはほぼ不可能なこと……。

あらためて声優さんの朗読を聴いてみて

ネタバレは極力避けるつもりですが、神谷氏が登場してから最後まで、その人格の変容を声のみで表現していく様は見事でございました。あ、これネタバレか。

最初にあげた声優の方が、王・長嶋・野村とするならば、
神谷氏は、松井かイチローのような存在なのでしょうか?
(バリバリの現役である神谷氏には失礼かもしれませんが)

神谷氏の朗読のトーンは、「ちょうどいい」。個性がないというのではなく「ちょうどいい」。作品から読み取った空気を作り出す声の表現は、才能なのか努力なのか、はたまたその双方なのか、私にはわかりません。しかし、同じ作品に登場されているほかの声優さんとは一線を画している気がしました。

「声優×朗読」。声を使うということでは、声優はプロですが、いわゆる普通の「朗読」と「アテレコ」は、似ているようでいて「野球」と「ソフトボール」くらいの違いはあるんじゃないかと思っています。

「アテレコ」のお仕事であれば、それに対応する「絵」がある。
語られる言葉は「絵」があれば、大げさにはならないのかもしれないけれど、言葉のみの場合、どうしても過剰にきこえてしまう気がするのです。

これって不思議なことだと思いませんか? 「絵」という要素があるほうが、より大げさに感じそうなのですが、私の感覚では「絵が無い」ほうが、より過剰に感じてしまうのです。

人間は視覚から入ってくる情報に多くを頼っていると言われます。そのため「音」は少し脇に追いやられ薄められる。その薄まり具合に慣れている声優さんは、無意識にやや過剰な表現をする。その普段の表現を「朗読」に持ち込むと、それが耳についてしまう……。こういう仕組みなんじゃないかと思っています。

一方で、俳優や女優は普段、体や表情を自分で表現のツールとしているため、声のトーンも大げさにならないよう注意しているのではないでしょうか? それが「朗読」をしたときにも、ほどほどの良い感じの表現になっているような気がしてなりません。

しかし、神谷さんはこういった壁を乗り越え、自然と「ちょうどいい」を作り出しているのです。Wikipediaのプロフィールをのぞいてみると、デビューしたてのころはナレーションのお仕事が多かったようです。そういった背景も「ちょうどいい」を作り出すことに長けている理由かもしれません。

しかしまた、朗読の聞き方として、俳優・声優・アナウンサーなど、それぞれの背景をもった方がどのように読み分けているかを聞くのも一つの楽しみ方かもしれませんね。

私的には、「朗読だけでメシをくっていける」という朗読の専門家がもっと増えてくれることを願っているのですが。

書き言葉と会話言葉

これもこの作品に限らずなのですが、会話のシーンにどうしても無理が生じているように感じます。

正直、青空文庫にあるような文学作品であれば、ほぼ気にならないのですが、現代の作品だと「書き言葉」と「会話言葉」が気になってしまいます。

いまだにテレビの字幕では、街角インタビューなどのとき、意固地に「ら抜き言葉」を否定していますが、一般のひとでは「ら抜き言葉」が大勢ですよね。

朗読も居酒屋のシーンなのに、言葉が砕けずお手本のような発音をしたり。正直、「書き言葉」と「会話言葉」は、朗読のために変えちゃってもいい部分もあるんじゃないか、と思います。

よく巻末に「当時の社会情勢がうんたらかんたら」とかってあるじゃないですか。あれを最初でも最後でもいいからつけてあげたらいい。

詩歌なんかでは一言一句を、きちんと読むことは大事なんですけれど、朗読されることを前提としていない会話の文章なんかは、かなり無理があるように感じました。

こういうところに朗読の息苦しさを感じるひともいるんじゃないかと、不安になりました。

入口は何でもいいから、朗読も

この作品は、書籍、漫画、映画とさまざまなメディアに展開されています。
映画は大々的に宣伝されるのですが、「ついに朗読化!!」とはなりにくいのが現状です。しかし、私は声を大にして叫びます。「聴いて損なし!!」。

さまざまな形でこの作品にふれた方、これを機会にこの作品を聴いてみると、あらたな世界が広がるかもしれません。

最終評価と概要

この本の朗読評価

これはいい。ぜひ聴いて!

この朗読を聞くことができるサービス

ナレーター

神谷浩史,津田美波,菅沼久義,ボルケーノ太田,赤羽根健治,伊藤かな恵,野島健児,西脇保,深川和征,山盛由果,谷昌樹,金本涼輔,香里有佐,半田裕典

作者(Amazonから)

志駕 晃
1963年生まれ。明治大学商学部卒業。現在は都内のラジオ局勤務。第15回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉として、『スマホを落しただけなのに』にてデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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